「いいこ」
子供の爪の様子がおかしいとのことで母親が気を揉んでいる。
けれどもしばらくは病院に連れて行く時間がないと言う。
そこで私が代わりに行ってやることにした。
案に相違せず何事もなかったけれど、診断を受けて母親は楽になったに違いない。
その日一日、私は子供と過ごすことになった。
子供は私の所に来るとずっとテレビ(に繋いだパソコンでアンパンマンなど)を観ている。
これをどうしたものかと考えあぐねていた。
時々来る場所だから、存分に甘えたいというような気持ちが働くのも分かる。
生活の場ではないのだから、あまり固いことを言いたくもない。
そこで基本的にかなり自由にさせているのだが、それでもやはりという限度がある。
外に連れ出すことにしているけれど、なかなかテレビの魅力には抗い難いようだ。
しかしその日は明らかに、テレビ以外のことで何かして遊ぼう、という素振りを見せていた。
ほう、と最初は思ったけれど、どうもこれは不自然である。
多分、私の意志に影響されて、自然の欲求を抑え込んでいるのだ。
とうちゃんの望む「良い子」を上手く演じようとしている。
こんな時、親は誤解をしてしまうものかもしれない。
テレビから離れてくれた、良かった、と。
ここはとても重要な判断のしどころだと思った。
思い返すと、自分自身が子供の頃、周囲の人の目を受けて、それに合わせて言動していたように思う。
これはある程度人間の本能だと思うが、内向的な子供には特に顕著に表れる気がする。
テレビから引き離すことが目的なのではなく、子供の心がいつも潤いを保っているという内的な状態こそが、大切なはずなのだ。
そう思って、「観ようか」と誘いかけてみたら、目を輝かせて「みたい」と言う。
それじゃあ、と一緒に、何度目かになるアンパンマンの映画を観た。
子供は毎回、初めて観るかのように夢中である。
それが終わってから、公園に出かけた。
多分、その順序と流れが良かったのだ。
インドア派で、行動控えめで、やや潔癖症のこの子が、珍しいことに、土の上に寝転がり、枯れ葉の山の中に埋もれて遊んでいた。
それを見ていると私の心も晴れ晴れと広がるようで、楽しく二人で夕暮れまで遊んだのだった。
コメント