4必要な体験を与えてくれる人
両親の家に月に一度、子供を連れて泊まりに行く。
自分の親と自分の子と、そうして時を過ごすと、それぞれが両面鏡のようになって、私の心を映し出す。
私は月毎に生まれ変わっている。
だから毎回、この前には見なかった風景や語られなかった言葉が立ち現れる。
そしてそれを反芻する内に、また一ヶ月経っている。
父は毎朝、写経をしているのだと言う。
「しばらく前までは写経をしながら雑念が湧いてきて、それは後悔や不満だった。
最近では写経をしながら心を満たすのは感謝だ」と父は言った。
近頃、父が半分無自覚の内に心の浄化に勤しんでいることには気付いていたが、私はこの言葉にとても感心した。
「でもその思いを一日継続するのが難しい。昼前には心が乱れている」と父は続けた。
自分の精神性の根本はこの男にあったのか、と新しく発見した。
父が、まどかのためにアニメを録画してくれていた。
まどかは飽かずにアニメを観ている。
そこに父がやってきて「大谷翔平を観たい」と言って、チャンネルを変える。
いつも自分が最優先されることに慣れているまどかは、癇癪を起こした。
それでも父は微塵も譲る気配を見せず、「もう少しで大谷だ」と動かない。
大谷は三振した。
そして大谷の出番が終わると、画面をアニメの録画に戻して、父は去った。
まどかはなおもしばらくいじけていたが、その内気分を戻した。
とても良い、必要な体験をまどかに与えてくれている、と私は思い、感謝した。
必要な機会を与えてくれる人は、必要な所に必要な程度において、いるものだ、と感じた。
コメント