55 ウクライナのカテリーナ

先日、ウクライナ人のソロコンサートに行ってきた。
カテリーナという女性で、バンドゥーラという楽器を弾き語りする。
見事な演奏だった。
私は泣いた。

演目の多くはウクライナの民謡だった。
民謡は民族の集合的な歌であり、個人の個性をその中に溶け込ませないと成り立たない。
必然的に個人の癖は排除され、それにより、歴史の遠い過去まで透き通って見えるほどの透明性が得られるのだ。

戦争中の故地を思って歌う彼女の歌声には、しかし透明性だけでなく、平和への心からの願いが込められていた。
凝縮されて、震えていた。
死が近くにあることによって、人の心はこんなにも強く美しく輝くものなのかと、改めて感じた。
歌と心が完全に一体になっていた。
本当の音楽家とはこういう人のことを言うのだと思った。

翻って、日本人のことを考えた。
死と喪失への予感がないために、漫然と生きている。
余計なことを考え、余計なものを求め、大切なことを見ていない。
そういう土壌から生まれた音楽は響かない。
「うまいですね」「おしゃれですね」より先に行く音楽は滅多にない。

心が輝くために戦争があるのは本当におかしな話だ。
だから戦争がなくても心が輝く生き方を求めないといけない。

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