60 目に焼き付けるしかない
御茶ノ水に、ロシア正教会のニコライ堂がある。
久しぶりに拝観した。
(ところで、昔の文書では教会は「耶蘇教の寺」などと記載されることがよくある。なんかこの言い回しが好きである)
こちらを読んで頂けると良いのだが…
言うまでもなく、どんな瞬間も、写真には収まりきらない。
iphoneのカメラを向ける時、何かを引き換えに見落としているんだろうな、と思う。
でもつい、子供と一緒にいると、この瞬間を保存したくて子供の写真を撮ってしまう。
「全て目に焼き付ける」などと言って、カメラも持たずにインド旅行した若き日の私が聞いたら、白けることだろう。
しかし、ニコライ堂にて、私の心を奪った絵は、撮影禁止の空間の中、遠くにあった。
近くで観たいが、近寄れない。
視力は充分だが、暗いのではっきり見えない。
ただ、その聖母子像に、私ははっきりと何かを感じているのだ。
可能ならばこの絵を何らかの形で持って帰りたいと思うが、叶わない。
せめて作者の名前をと思って尋ねたが、不詳だという。
今更私が言うまでもない話だが、一通り何でも手に入る時代になった。
あれ何だっけ、と思えばだいたいGoogleで出てくる。
でもあの絵は決してどこにも出てこない。
絵葉書もないし、パンフレットにもない。
目に焼き付けるしかないのだ。
遠い昔に味わった、恋のようなものだと思った。
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