寝物語
まどかは生活のリズムが整っているらしく、午後9時くらいになると、「もう、ねよう」と自分から言う。
布団に入ると「おはなしして?」と言う。
アンパンマンが好きなので、そのお話をする。
小さなお話をいくつかする。
一つのお話が終わると、「つぎはおむすびまんのおはなしをして?」というふうに続く。
目を輝かせて聞いている。
そのくせ、話の終わりまで来て、「おしまい?」と聞き、「そうだよ」と私が答えると次の瞬間にはもう寝息を立てている。
真似しようにも出来ない芸当。
子供とはこのようなものかと感心する。
寝物語の楽しさというのは、本能的なものなのだろうか。
次またその次とお話を求めるその姿は『千夜一夜物語』に通じる所がある。
さしずめ私はシェヘラザードだが、眠気が勝って敵わない。
それなのに、子供が眠りに落ちると入れ替わりに目が冴えてしまって、その後暫く眠れない。
その横で、子供はずっと寝息を立てている。
自分自身もまた、寝床に入ってから読むのに楽しい本があると、そんな夜を心待ちにしている。
お話を聞かせてもらう喜びは、大人になっても消えることがないようだ。
読みたい本がない夜には、眠るまでのひとときは物足りなく思われる。
なぜなのだろう?
なぜ眠る前に、人は物語を聞きたくなるのだろう。
本当に不思議なことである。
最近では、田辺聖子が訳した『今昔物語』がとても面白かった。
まさに夜にお話してもらうのにうってつけだった。
それとラリー・バークダルの『ナゲキバト』。
これは本当に素晴らしい宝物のような小説である。
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