21 選択
父が泊まりに来た。
朝、父が言った。
「ラジオを聞いていたら、「それはあなたが〈選択〉したことなんです」というような話があった。でも俺には選択肢なんかなかったよ」
不満そうだった。
まあ、気持ちは分かる。
しかし話を聞いていると、こう続く。
「例えばAさんが逃げる、Bさんが逃げる、だから俺がやるしかなかったんだ」と。
そこで私は言った。
「つまりAさんとBさんは逃げる〈選択〉をしたんでしょう。
一方、お父さんは、逃げない〈選択〉をしたんでしょう。
AさんやBさんのようなずるい〈選択〉をしたくない、たとえ苦しくとも、という〈選択〉をしたんでしょう」
父は、あっ、という顔をした。
その後、どう内省に繋げるかは、知らない。
他人の頭の中には立ち入らないことにしている。
「選択肢がなかった」
これは私も以前よく使ったセリフだった。
この父にしてこの子あり、である。
でも実際には、ちゃんと選択していた。
単に、自分でそれを選択した、という重みを引き受けたくないために、言い訳をしていたのだ。
「人生を肯定するということは、明るく前向きに考えるということではなく、自分は選択に選択を重ねて今に至ったんだということを正しく理解することなのだと思います。そしてそれを受け入れること」と私は父に言った。
こういうことを言う時、説教がましくなったり、しつこく相手の理解を確認しようとしたりしなくなったこと、それもまた、自分が選択に選択を重ねた結果としての、長年の成長の証と思えた。
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