54 話せない人は、放せない

ある人が配偶者のことで困っている。
八方塞がりでとても辛そうなので、誰か話せる人に洗いざらい話すことを勧めた。
でも「こんなこと、人に言えない」と言って譲らない。
「言える訳がない」「言えるとしたら、その人は恥知らずだ」という含みがある。

固定観念である。

固定観念の厄介なところは、自分がそう考えるのは至極真っ当で、それ以外などあり得ないと信じ込ませることである。
自分のお恥ずかしい話をして、一体何が失われるとこの人は思っているのだろう。
プライドが高い、の一言に尽きる。

私なんか、何でも話す。
もちろん、人から何を話されても驚かないし、軽蔑もしない。
私はそういう世界に生きているから、ちゃんとそういうふうに話を出来る友だちがいる。
一方、この人は、そういう世界に生きていないので、そういうふうに話を出来る友だちがいない。

話せば何か変わるのかと言えば、何も変わらない。
でも話せない人は、放せない。
結局、問題に抱きついていつのはいつも自分なのである。

話して、一緒に怒ったり、悲しんでくれたり、もっと良いのは笑ってくれることなんだけれど、それがどれだけ心を軽くしてくれるかということは、経験したことがない人には考えもつかないことらしい。

実に惜しいことである。

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